ただ、日常がそこにある。 乙嫁語り
森薫という作家は不思議な作家だ。漫画には当然プロットが存在し、山あり谷ありの物語のテーマやテーゼがあるはずなのだが、この作家の漫画には、そういったものの影が非常に薄い。
ある意味井上雄彦の「バガボンド」にも通ずる手法といえるのかもしれない。「乙嫁語り」は、カルルク・エイホンのもとに年上の妻アミルが嫁いできた、というところから物語が始まる。そこに描かれるのは彼らの日常であり、特別なことは何もない。
食文化や結婚式などに代表される”生活”が、そこにはあるだけだ。だけど、なぜかそんな日常に惹かれていく。そこに存在した人々の息遣いが聞こえてくるかのような精密な筆致がそうさせるのかもしれない。現在六巻まで刊行中。